星と猫の数学

私を退屈から救いに来た、夢のヒーロー

十行小説 「あの日のお礼に」

「……何かお菓子でも作ってた?」
 私の疑いの一言に、彼女はこれ以上ないくらいわかりやすく驚いた。いつもの事ながら感情表現がはっきりしている様は見ていて飽きない。
「何でわかったの?」
「微かにバニラの香りがする」
 自分でも時折クッキーを焼いたりするから、あの特有の甘い匂いはよく覚えている。それに私の記憶が確かならば、バニラ味のお菓子は買い込んでいなかったはずだ。
「実はね、クッキー作ってたの。バレンタインにチョコをくれたお礼にと思って」
 お礼なんていいのに、なんて軽く返そうとしたが、次の言葉で私は動揺してしまった。
「だって好きな人から貰ったんだから」

お題

「残り香」

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