星と猫の数学

私を退屈から救いに来た、夢のヒーロー

【ゲームピックアップ】ひぐらしのなく頃に

あらすじ

『雛見沢』という村では『オヤシロ様』と呼ばれる神様が祀られており、毎年6月には『綿流し』という祭が行われている。そして5年前の綿流しの日から4年連続で殺人事件が発生していた。村の人々はそれを『オヤシロ様の祟り』として恐れ、年々綿流しを真剣に行うようになっていった。

そんな雛見沢に転校してきた『前原圭一』は、雛見沢分校の仲間達と『部活』と称したゲームに全力で挑む等の楽しい日常を過ごしている。

そして『オヤシロ様の祟り』が起きてから5年目の綿流しの日。再び殺人事件が発生した事を境に日常は終わりを告げ、惨劇の幕が上がる。

概要

今から十数年前に一世を風靡したといっても過言ではない同人ノベル(ゲーム)『ひぐらしのなく頃に』を最近読み終えました。当時はほとんど興味がなかったので推理・考察論議には一切参加しなかったですし、今となっては様々なネタバレを知っているので推理や考察をするより物語を楽しむ方で読んでいました*1

ノベルゲームの形式ではありますが、昨今の選択肢の少ないノベルゲームを更に極端化したように選択肢が存在しません*2。そして本編は全部で8本、しかも1本の分量は相当なモノなので全部読むのに1ヶ月くらいかかりました。

(以下ネタバレ有り)

感想

一つの物語としては十二分に楽しめる作品でした。同じ舞台と同じ登場人物でありながら異なる惨劇が描かれ、それに対して立ち向かっていく圭一達の様相は胸が熱くなりました。惨劇の起きた3編から1つの惨劇の裏側を描いた『目明し編』を経て圭一が様々な罪と向き合う『罪滅し編』で惨劇回避への道が開き、『皆殺し編』で状況を打破、『祭囃し編』で完全に惨劇を起こさず完全ハッピーエンドと盛り上がっていく展開は素晴らしい。それぞれのクライマックスでは泣きそうになりました(『祟殺し編』以外はエンディングで、『祟殺し編』は綿流しまでの所で)。どこかでひぐらしの物語はゲーム的だと称されていましたが、梨花が何度もループしながら(高次元の視点を持ちつつ)トゥルーエンドに向かおうとするのは確かにゲームプレイヤーのそれですね。いわゆるループものな作品ですが、そこがひぐらしの特色とも言えるでしょう。

ただ冷静に見ると色々気になる点もあります。

まず序盤で示していた(と感じた)『ミステリー』として見ると、後半はテーマがズレたためにミステリーではなくなっていたように感じました。確かに解決編として様々な謎に対する答えが明かされましたが、後半は謎の解明よりも惨劇を起こさないための戦いの描写がメインとなっていました。物語全体のテーマはおそらく後半で示したモノだと思うのですが、それなら最初からこれはミステリーではないという事になります。

ミステリーとして見た場合、更に気になるのが『雛見沢症候群』の原因とされている寄生虫ですね。「寄生虫によって精神に異常を来し、最終的にはリンパ腺に痒みを感じて自ら喉を掻きむしって死ぬ。しかも死んだら寄生虫は消滅する」という設定が都合が良すぎるように感じられます。確かにそれで説明は付きますが、状況ありきで話を作ってその辻褄合わせに作り上げられたように見えて残念です。

もう一つ、最初の3編こそ圭一視点で物語が展開されていましたが、赤坂視点の『暇潰し編』や詩音視点の『目明し編』はさておき、『罪滅し編』以降は様々な人の視点(特に梨花の視点が多い)になっている上に最後の『祭囃し編』は圭一の出番がそれまでに比べて激減しています。それぞれの話における主人公が異なるといわれればそれまでですし『罪滅し編』『皆殺し編』では活躍をしていたからメンツを保っていたとも言えますが、締めは重要人物である梨花に主人公の立場を譲ったのがやっぱりズレを感じます。

……まあ、フィールドが違うとはいえ同じ創作をしている身としては上記はブーメラン発言でもありますが! 特にテーマのズレや後付け(に見える)設定は自分もやらかした事があるんで……。

あと昭和58年という設定なのにそれにそぐわない『萌え』という言葉*3や圭一のいわゆる『固有結界』で明らかに当時存在していない様々なモノへの言及とかありますが、本筋には直接関係無いギャグ描写な部分なのでいいかなとは思います。本筋に関係ある部分でも突飛なネタが入ったりしますし、そこまでリアリティを求めなくても楽しめるので問題ありません。さすがに本編でのいわゆる『シリアスな笑い』に相当する(と感じられた)描写は失笑でしたが。

とはいえ気になる部分が幾つもありながら楽しめた作品であったのは間違いありませんし、良作と言えます。合計何十時間もかけて読んだ楽しさは本物でした。

余談

エンディングを見終えた後にOVAを見るんじゃなかった……余韻が綺麗に吹っ飛ばされました(ギャグ的な理由で)。いやわかってそれを見たんですけどね! この馬鹿馬鹿しさ、嫌いじゃないわ!

*1:原作の方じゃなくて絶版になった『ひぐらしのなく頃に粋』の方を購入しました。プレミア価格で定価以上になっていましたが、その価値はあったと思っています。思っています(大事な事なので以下略)。

*2:というかもはや音楽とビジュアルがある小説で、そうなったのも『余計な思考を挟まず物語に集中してほしい』からだそうです。

*3:少なくとも『萌え』という言葉が頻繁に使われるようになったのは90年代末期から2000年代に入ってからであり、昭和末期に存在していたとしてもそこまで通じる言葉ではない。